大阪高等裁判所 昭和27年(ネ)130号 判決
控訴人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人より訴外榎坂英夫に対する神戸簡易裁判所昭和二十三年(イ)第三四号債務弁済方法和解申立事件の執行力ある和解調書正本に基く強制執行は、別紙<省略>目録記載家屋中別紙図面表示の朱線で囲んだ部分に相当する表側事務所、三畳間及び便所等十五坪に限りこれを許さない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めると各申立てた。
当事者双方の事実上の陳述は控訴人において控訴人主張の本件家屋所在地番を変更したのは変更登記をしたのではなく、建物の同一性を有する更正登記をしたものである。と述べ被控訴代理人は右控訴人の主張を否認し該登記は同一性を有しない別個の新登記である。また控訴人が訴外榎坂英夫からその主張の家屋を買受けた事実は知らないと述べた外はいずれも原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
被控訴人が訴外榎坂英夫(第一審相被告)と控訴人主張のような和解を為し同訴外人がその買戻しをしなかつた為め別紙目録記載の家屋につき所有権移転登記をしたうえ執行力ある和解調書正本に基き右家屋明渡の強制執行に着手し現に進行中であることは被控訴人の明らかに争わないところであり、また右家屋中控訴人主張の部分に当る家屋につき、昭和二十二年三月三十一日訴外榎坂英夫が神戸市生田区楠町一丁目四十一番の五地上家屋番号第百二十三番木造スレート葺平家建居宅一棟建坪十五坪の所有権保存登記を為し、これに控訴人が昭和二十二年九月八日所有権移転請求権保全の仮登記をし、次いで昭和二十三年七月二十九日その本登記をしたこと及び右家屋全部につき昭和二十三年五月三十一日訴外榎坂がさらに神戸市生田区楠町二丁目四十一番の五地上家屋番号第九十五番木造瓦葺平家建事務所兼居宅一棟建坪三十八坪八勺として所有権保存登記を為し、被控訴人が同日これに所有権移転請求権保全の仮登記をし、次いで昭和二十六年五月十六日その本登記をしたことはいずれも当事者間に争いがない。
控訴人は右家屋中その主張の別紙図面表示の朱線で囲んだ部分に相当する表側事務所、三畳間及び便所等十五坪は該家屋のその他の部分とは別個の家屋で控訴人はこれについて所有権取得の本登記を経由しているので、被控訴人にその所有権を以つて対抗できると主張するので、この点について考察するに原審並びに当審における検証の結果によれば、別紙目録記載の本件家屋は神戸市生田区楠町二丁目四十一番の五地上に実在し、控訴人主張の十五坪の部分とその後増築されたというその他の部分とは相合して一体となつて形造つていることが認められ、それらが各々別個独立の家屋とは到底認めることができない。そこで進んで登記の効力の点を検討するにおよそ同一の建物について二重の保存登記をすることは不動産登記法第十五条の規定により許されないところであつて、当該建物がその登記後に増築又は改造によつて一部変更されたときは、既存登記について変更登記をすべきであつてこれによつて別個の登記をすることはできない(取毀ちによる新築の場合を除く)のは言うまでもないことである。そうしてここに二重の保存登記とは同一建物につき二個の保存登記が存在し、そのいずれもが登記簿上の関係において当該建物を表示するに足る形式上同一性が認められる場合をいうのであつて、かかる意味における第二の保存登記は原則として無効といわなければならない、たとえ同一建物につき第一の保存登記があつても第二の保存登記における建物の表示が第一の保存登記の建物の表示と著しく相違し、登記簿上の関係に於ては形式上同一建物についての保存登記と認めることができない場合には、そのいずれの登記が実質的要件を備えているかどうかによつてその効力を定めるのが相当である。これを本件家屋の登記について見るに控訴人主張の前記建坪十五坪の家屋について訴外榎坂が保存登記をしたのは昭和二十二年三月三十一日で、その所在地は神戸市生田区楠町一丁目四十一番の五であるのに、同訴外人が本件家屋全部である三十八坪八勺の家屋につき保存登記をしたのは昭和二十三年五月三十一日で、その所在地は同市同区楠町二丁目四十一番の五となつており、前者の控訴人主張部分の建物に対する保存登記は実際と著しく相違しているに反し、後者の家屋に対する保存登記は実際に適合してなされていることが認められる。そうして本件家屋の存在する楠町にはその一丁目及び二丁目に各々四十一番の五、三丁目及び六丁目に四十一番なる地番があることは当事者間に争いのないところであつて、本件家屋附近には類似の地番が多数存在するわけであり、しかも前示当審における検証の結果によれば右楠町一丁目四十一番地及びその附近は非戦災地であることが明らかであつて、昭和二十二年三月頃から同地帯一帯に同種同等の家屋が多数存在していたことが認められるので前記控訴人主張の登記はそれが本件家屋中控訴人主張部分の建物を表示する登記で本件建物と同一性があるとは到底一般にこれを認識することができない。従つて控訴人主張部分に相当する保存登記は実際に符合しない無効の登記といわなければならない。そうして既になされた登記事項(表示欄)に錯誤又は遺漏がある場合には更正登記ができるのであるが、それは登記簿上の表示が甚だしく実在の建物と相違せず、大体において表示しようとする建物の登記であることが認められる場合でなければならない。換言すればその更正登記の前後を比較してその建物の同一性が認められる場合に限らるべきであると解するのが相当である。従つて本件のようにその保存登記の内容が著しく実在の建物と相違せるときはたとえ後日更正登記によつて事実と符合するようになつたとしても、その建物の登記として何等の効力を有しないものといわなければならない。
そうすると右無効の登記に基いてした控訴人の所有権取得登記もまた効力がないから、右登記を云為して被控訴人に対抗することができないことは明らかであつて、控訴人の被控訴人に対する本訴請求はその余の点を判断するまでもなく失当としてこれを棄却すべく、これと同趣旨に出た原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法第三百八十四条第一項第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 田中正雄 神戸敬太郎 平峯隆)